前原弘昌のバイク旅

*金閣寺のご縁

2010年03月21日(日曜日)

★ 金閣寺のご縁
8月20日 (月) 晴れ時々曇り所により雨  26日目
 明け方、寒さで目が覚めた。無茶苦茶冷える。温度計を見ると6℃。テントのフライシートが表も裏も露でびっしょりだ。こんなに気候が変わるとは思っていなかった。パースへは午後着けばいいという気持ちで、しばらく煙草をふかしながら、地図を眺めてぼんやりする。
 隣の老夫婦がモーニングコーヒーを勧めてくれる。おじいさん、いやおじさんの方は、モトクロスで何度もオーストラリアチャンピオンになったことがあるとかで、今はパースでモーターサイクルショップを経営している。まぁ今はリタイアして、息子に任せているらしいが。
 当然バイクの話になる。リアタイアの山がもうほとんど無くなっており、チェーンもあと7~8000キロあるシドニーまではとてももたないだろうと、相談してみた。彼は、
「メカニックの腕は良いので、パースで息子を訪ねてみろ。きっとうまくやってくれる」
 と言って名刺をくれた。

 久し振りに(ひょっとして初めて)洗車する。洗濯用の粉石鹸をタオルにくるんでそれで拭いて、あとは水で洗い流しただけ。オイルと赤土まみれになっていたのが、なかなか奇麗になった。
 それにしてもリアタイヤの減りが早い。この国のシールドロード(舗装路)はビッチメンと呼ばれ、アスファルトではあるが結構粗い。未舗装の道路は、グラベルロード(よく固まった土道)、ダートロード(一般の未舗装路)、トラック(小路)などと呼ばれている。そういうところを走ればタイヤの寿命ももっと長いのだろうが、俺が計画している一周ルートは、現在ではほぼ舗装されているらしい。オフロードタイヤではこの減り方も仕方がないか。
 朝早くに、管理人のおじちゃんが料金を集めに来た。昨日は払っていなかったのだ。3ドル。だからシャワーもトイレも洗車も、いっぱい水を使ってしまった。

 ちょっと走ると、ジェラルドトンという町に出た。日本から持って行ったただ1枚の名刺、ロバート・ロックマン氏の職場に電話する。彼とは2年前金閣寺で出会った。俺はその時塾の小学生を連れて、外人ハントに行っていた。彼は農業局の役人で、国際会議出席のため、家族と京都を訪れていたところを知り合ったのだ。その後連絡は一切してなかったのだが、彼は覚えていてくれた。
「是非泊まって行け。食事も一緒にしよう」
 と言ってくれる。こっちにも少しはその期待もあったのだが、宿泊所が初めて昼前に決定した。こうなるとちょっとプレッシャーが掛かるのも不思議なものだ。やはり旅は行き当たりばったりが一番。今夜の宿はどうなるのか、と少し不安がある方が俺にはいいみたいだ。
 次の町で銀行に寄った後、ペトロールを入れ、昼飯を食い、ついでにコーヒーを飲みながら、日本へのハガキを書く。気持ちが乗っている時にと思い、結局9枚も書いてしまった。時計を見ると1時半。パースには5時に着くと、さっきの電話でロックマン氏に伝えていた。あと360キロを3時間半、時速100kmでOKなのだが、そううまくはいかない。気に入ったところがあると、止めて写真を撮ったりで進まない。

 様々な緑のフィールドが拡がる裾野に向けて、峠の上から1本の道がゆるくくねりながら続いていく。スリーピングマットをクッションの代わりにして、スピードメーターの上に置き、更にタオルを敷いた後、ビデオカメラを予備のパッキングロープで縛った。
 この風景はとても俺の能力では文章にして残すことは出来ない。走行しながらビデオに残しておこうという魂胆だ。ボタンが押さえ付けられているのだろう。すぐにズームアップしてしまうのを手で止めながら、時々ファインダーを覗いて走る。気が付くと、アクセルはいっぱいまで回っていた。スピードは分からず。だが片手でコーナリングして危ないものだった。
 途中、いきなり雨が落ち始める。急いでビデオをしまい、荷物にプラスティックのごみ袋をかぶせて走り出す。合羽は着ない。すぐに雨雲の下を通過。しばらく走るとまた雨。こういったことが数度繰り返されて、また突入。今度はヘルメットのシールドを雨が流れる。しかし合羽は着ない。突っ切るぞ。もし降り続けていれば、アウトだ。次第にウェアが冷たくなってくる。
「失敗だったか」
 と思ったあたりで雲をぬけた。120km/hで巡航していると、間もなく乾いた。きれいな虹。また写真。そんなことをずっとやっていて、パースに着いた時は、既に6時を回っていた。
 電話をかけて、ロバートに迎えに来てもらう。平屋だが、前には芝生の庭があり、家の中は白い壁。色の濃い木製の綺麗な家具。暖炉。シンプルだが、とてもくつろげる家だ。奥方のジュリアンも笑顔で迎えてくれた。持って行った写真を渡す。あのとき6ヶ月だった坊やは、もうすっかり大きくなっている。挨拶してくれるが、よく聞き取れない。すぐにロバートが通訳してくれる。シャワーを使わせてもらって、やっと落ちついた。
 夕食は、ミートスパゲティ、サラダ。ビール付でとてもうまかった。パースに滞在中、ずっと泊まれと言ってくれる。いいのかなぁ、ほんの僅かの時間、京都で知り合っただけなのに。久しぶりに家の中で寝られる。

パース ロックマン氏宅泊
本日の走行 Northampton ~ Perth 487km

……次回「家族写真と妻の髪」へ続きます