*道なき道
2010年03月12日(金曜日)
★ 道なき道
8月19日 (日) 晴れ時々曇り 25日目
昨夜の雲はどこへ行ってしまったのか。空はすっかり晴れ渡っている。気持ちのいい朝だ。それにしてもシェルの上にいきなりテントを張るのは、ちょっと乱暴だったか。割れた小さな貝殻で、テントを傷付ける可能性が大きい。やはりグランドシートは必要だ。
濡れたテントとシュラフを干し、いつものようにチェーンを手入れして、オイルを継ぎ足す。荷物を整理していると、ホールズ氏が、
「コーヒーが入ったから、来ませんか?」
と誘ってくれた。好意に甘えて、今朝はティーをいただくことにした。
やがて俺の出発準備が整うと、それまでその様子をじっと眺めていた2人が、記念撮影をしたいという。最初は夫人と、次に御主人と2枚撮ってもらった。そしてエンジン始動。キック一発。よおーっしゃ、決まったぃ。姿が見えなくなるまで手を振った。
地図の上ではすぐ近くに見えても、モンキーマイアまではずいぶんある。しかし濃い緑の林の中を一本道がアップダウンを繰り返しながら、ずっと北へ延びている。丘の上から見える海も、海岸近くはシェルの白、それから緑、沖はブルーとはっきり分かれていて、本当にきれいだ。退屈するわけがない。この辺りの海は塩分が多すぎて魚は近寄らないと、昨夜ホールズ氏から聞いた。
10時到着。入場料が5ドルらしいが、ボート運搬用車両の所から入れば必要ないと、やはりホールズ氏が教えてくれていた。その通りやった。ちょうどイルカがやって来ていて、皆裸足になって海へ入っている。俺はブーツを脱ぐのが面倒で、そのまま浜から、ビデオとカメラの両方で追いかけた。浜では大きなペリカンが遊んでいるが、みんなの目は海の中の親子イルカに注がれたままだ。イルカがいなければ、こいつも主役になれたのだろうが。俺はそいつがじっとしているときに近づいて、きっちり記念撮影をしてきた。子供達の顔が思い浮かぶ。さわらせてやりたいものだ。
モンキーマイアから24km、同じ道を引き返す途中、斎藤さんから聞いていたデンハムという町に、給油のため立ち寄った。坂を下って行くと、海岸沿いの道路に出た。何と穏やかなこと。俺好みの町だ。海面が道から僅か1mぐらいの所にあり、狭いが砂浜が道に沿って続いている。珍しく小さな土産物屋に入ってみた。ここは、オーストラリアで一番西にある店だとか。なぜか宗谷岬を思い出してしまう。あそこにも、日本最北端の店というのがあったからだ。単純な俺。
更に129km引き返し、やっと昨日右折したオーバーランダー・ロードハウスへ出る。見ると1人の日本人ライダー。パスするつもりだったのに、急きょ予定変更。パーキングエリアに入って行った。俳優の西田敏行に似た帽子を被っている青年、東京から来ている坂口彰男氏が、
「4日間で2000kmの砂漠を走って、ようやく抜け出してきたところ。何十回となくこけて、ウィンカーもミラーも無くなってしまった。もうボロボロですよ」
と話してくれる。40分ほど話していると、埃にまみれたライダーがやってきた。俺と同じXT600だ。坂口さんが両手をあげて大声を出しながら駆け寄る。
「無事ならそろそろ逢うはず」
と、さっき彼が言っていた知り合いの鷹取一さんが偶然にも現われた。1ヶ月ぶりの再会とのことだ。オレンジのモトクロスウェアはすっかり色あせている。彼もまた、道なき道を走り、地元のアボリジニーが、道に迷って何人も死んでいるような奥地に入りこみ、2日間で農家の車1台に遭ったきりのようなところを走ってきたらしい。日程の関係で俺が諦めざるを得なかった、世界最大の1枚岩、マウント・オーガスタス(エアーズロックの2倍の大きさ)へも行ってきたという。どんなものだったか、その感想を聞くと、岩肌には植物が群生していて、エアーズロックほどのインパクトはなかったとのことだ。
彼らの話を聞いていると全く凄い。道なき道、ストックルートを選んで走る全くの冒険旅だ。ただただ脱帽。とても真似が出来ない。俺のやっている一周など、子供だましに思えるほどだ。まぁ人それぞれだし、一番やりたくて、現在の俺にできる精一杯のことが、今やっていることなので、これでよしとするしかあるまい。
ロードハウスで昼飯のトーストサンドを頬張りながら、そういう話を聞き、結構わくわくした楽しい時間が過ぎた。記念撮影をして別れる。彼らはこれからシェルビーチへ向かい、俺は南へ下って行く。
それにしても色々な旅や冒険のスタイルがあるものだと、その後の240kmをノンストップで110km/h巡航しながら考えていた。
オーバーランダーから200kmも下ると、突然周囲に濃い緑が増えてくる。今までは、淡い色ばかりだったので、よけいに強烈で、新鮮さを感じる。普通の草(牧草か作物)の色が、こんなに奇麗だったとは。そして、緑の色がこんなに沢山あるとは。この頃から気温も急激に低くなり寒くなってきた。震えがくるほどだ。
ほどなく小さな町があった。キャラバンパークもある。今日はここでテントを張ることにした。飯を炊きながら、チェーンを張ったり、メンテナンスをやっていると、隣のキャラバンから、
「コーヒーはいかが?」
と声がかかった。いかにもオージーというような老夫婦だ。有難く情けを頂戴することにした。旦那が持ってきてくれる。3枚のビスケット付きなのが嬉しい。このところよく施しを受ける。これからは托鉢ライダーとでも名乗るか。
益々気温は下がり、9時半現在、外気温はもう10℃を割っている。ここは本当にもう冬なのだ。つい5~6日前までは、泳ぎたいほどの暑さだったのに、随分と下ってきたものだ。
ノーサンプトン・キャラバンパーク泊(3$)
本日の走行 Shell Beach ~ Northampton 457km
……次回「金閣寺のご縁」へ続きます