北米旅② * 序章 旅に出るワクワク
2010年03月11日(木曜日)
いつでも出来ることは
いつまでも出来ないにも通じる
だからいつも心のいい加減さを大事に
ワクワクしながらスタンバイする
◆ 冗談じゃねぇ! 今さら戻れるか!!
「うぉ~っ!?」
今まで続いていた快適なアスファルトが、突然ぬかるみの道に変わった。
≪UNDER CONSTRUCTION(工事中)≫の立て札をビュン!!と通り過ぎた時はすでに遅かった。
1時間程前の雷雨をうまくやり過ごして、太陽も出ていたために、気持ちにスキができていたか!?
俺の心を見透かしたように、あの大雷雨はここに罠を仕掛けていたのだ。
気がつけば、俺はとんでもないスピードで悪魔のような泥の海に突っ込んでいた。反射的にブレーキをかける。前輪が滑ると、このスピードでは立直しがきかない。俺は無意識に後ろブレーキのほうを強く踏んだ。
直後、バイクは後輪がロックして後ろが左に滑る。すぐさまハンドルを左に切って、カウンターを当てる。後ろブレーキを離すと、右斜め前方に走り始めた。目の前は崖だ。体重を左にかけ方向修正、すぐブレーキ。
荷物満載1100ccのバイクは、車体を左右に大きく震わせながら、またタイヤを滑らせる。今度は左前方だ。路肩には大きな石がたくさん積んである。ぶつかればただでは済まない。右足に体重を掛け、ハンドルも右へ。
バイクが垂直に立ったほんの一瞬、前ブレーキを心持ち強く握った。前輪が滑る。すぐ離す。瞬間瞬間が、命のやりとりだった。
こういう時は絶対に諦めてはならない。諦めたら最後、直後にコケる。全神経をコケずに止まることに集中し、全力を出した。そしてそれはうまく行った。車体を右に左に振りながらも俺は、相棒を無事に道の真中に停車させることができた。足をつくと、あまりの緊張感で、身体がガタガタ震えているのがはっきりとわかった。
この道は補修ではなく、新しく作っていると言ったほうが正解のような気がした。それほど道路の状況はひどい。ブルドーザーで削った土や岩がそのまま路肩に残されている。おまけにさっきの雨ですっかりぬかるんでいる上に、車が何台か通ったあとなので、再スタート後も前輪、後輪共にズルズルにすべる。
気はまったく抜けない。足をつくのはたいてい水溜りの中。そこが滑らないからだ。ブレーキも水の中のほうが効き易いようだ。濡れることなどどうでもよかった。ヌルヌルの土がバイクにもブーツにもつきまくっていて、水溜り以外の所で足を着くのは、メチャ疲れる行為だったから。
数台の車と出遭ったが、むろん手を挙げて挨拶する余裕などない。ホーンだけ鳴らしてすれ違った。前方で立往生している2台のハーレーを発見。近づくと、手を振って俺を止め、
「この先5マイル(8km)ほどもこの状態らしい。もうこれ以上進むのは無理だ」
と、30歳位の男が言う。頭にはヘルメットの代わりに、バンダナを巻いている。もう一人の奴も両足を着いたまま腕組みをして、頭を横に振っている。
「冗談じゃねー!いまさら戻れるか!」
そう思ったが、俺は冷静に言葉を発した。彼らとのやりとりで、どの程度の危険度なのか探ってみるためだった。彼らの言葉を無視して、突っ込んでいくだけの勇気は、まだない。ここはアメリカ、俺の知らない危険がどれだけあるか判らないからだ。
「今来たひどい道も5マイルほどだった。その情報が正しければ、俺達は丁度まん中にいる所だ。行くも返るも距離や状態が同じなら、行ったほうがいいと思うが……。正直、俺は行きたい」
俺が言うと、バンダナ男はため息をついて、
「そうだな。行くしかないか」
と言って、腕組み男のほうを見た。見られた奴は首を小さく横に振ったが、それが否定でないことは俺にはわかっていた。
二人がエンジンを始動させた。ハーレー独特の排気音が山中に響き渡る。彼らに続いて俺も走り始めた。俺もこんな山奥では、万一のことを考えると一人よりも連れがある方がいい。
悪戦苦闘の末、やっとのことドロ地獄をぬけ出した。ハーレー野郎達が道端に止まった。彼らはここでバイクやブーツについた泥を落とすとのことだ。
俺は先を急ぎたかった。8時を過ぎて日も暮れてきた。今日中に、何とか親友のリードがいる『フィッシュン・フライ・キャンプ(Fish’n Fly Camp)』に着きたい。地図で近くの町を確認し、道路の案内を見ながら走れば何とかなるはずだ。距離は70マイル(112km)ほどだろうか。タイヤにさっきの泥がついている為、少し倒すとズルッといく。あまり飛ばせない。
…次回『いい塩梅(あんばい)のこころ加減 ~日本にて』に続きます