前原弘昌のバイク旅

*バイクで世界一周ハネムーン

2010年02月19日(金曜日)

★ バイクで世界一周ハネムーン
8月15日 (水) 快晴  21日目
 5時半起き。1時間半時計を戻しているので、今までの感覚だと7時なのだがまだ暗い。周囲が起き始めたので、つられて起きたのだ。
 7時出発。ほとんど変わらない風景の中をひたすら走り続ける。この調子だと今日は随分の距離を進むことが出来るかも知れない。200km程走った頃、向こうから3台のバイクがやって来るのが見えた。今日は久しく対向車と出遭っていない。すれちがうとき、いつもより大きく手を振った。向こうも手を振ってくれる。
「おっ、日の丸!日本人ライダーか?!」
 大型のウィンド・スクリーン(風防)に貼られた日の丸が、日本人ということをアピールしていた。
 しかし、お互い100km/h前後のスピードなので、一瞬にして離れてしまう。日の丸が印象に残り、振り返る。向こうのバイクのテールランプも赤く光って、走りながらこちらを振り向いている。
 俺がUターンして、彼らの後を少し追うと、最後尾のバイクがターンして戻って来て、俺の前に止まった。
 ブルーの車体に白い文字、テネレ(ヤマハの大型オフロードバイク)か。それにしてもすごい荷物だな。あれっ、どこかで見た様な…。
「ひょっとして、斎藤さん?」
 と、俺。
「そうです」
 と、ヘルメットをとりながら彼。
「うぉー、こんな所で会えた!」
 この旅に出る前、学生時代の親友、桂一朗氏が、
「仕事を通じて知り合った人が、夫婦でバイク世界一周している。前原にも是非会わせたいから、また紹介する」
 と教えていてくれた。俺も『Mr.バイク』や『ビーパル』という雑誌で、何度か読んで記憶にあった斎藤晃氏だ。奥さんの則子さんもUターンして来る。
「まさか、こんなことが…」

 彼らは俺のことを知っていなくても、俺にはそういう経緯もあって、このどえらい偶然にいたく感激してしまった。
 自分達の夢を追って、新婚旅行にバイクで世界一周を計画し、今まさに達成しようとしている2人。真似ようと思っても、おいそれと真似の出来るものではない。こういう人達はみんな、いい顔をしているものだ。実際、目尻にしわができる彼らの笑顔は、世界の笑顔を集めて来たような魅力があった。
 それにしてもこのすごい荷物で、ボーダー(国境)を通過するのは、さぞかし大変なことだろう。同じ海外ツーリングでも、日本から一国だけへ行って帰るのと、続けざまに国から国へ渡って行くのとでは、手間や労力はまるで違うはず。入国とかフェリーとかの手続きなど、どうしているんだろう。ビザの取得が日本で気軽に出来た俺からは、想像しにくいものがあった。会話だけならボディ・ランゲージでも通じるだろうが、書類となるとそうはいかない。英語だけですべて通用するような世界でないことは、容易に想像できる。聞きたいことは沢山あったが、今はこの偶然の出会いを喜ぶほうが気持ち良かった。
 記念撮影をして話ははずんだ。しかし、お互いまだ今日は走らねばならない距離が多く残っている。日本での再会を約束して別れた。

 今日の目的地はブルーム。戦時中日本軍が押し寄せてきた所で、今でも日本人を極度に嫌っている人達が一部いるらしい。先日も自転車旅をしている日本人に、空缶が投げ付けられた、という話をさっき斎藤さんから聞いた。お気軽気分のところばかりじゃないんだな、と改めて感じた。そこに8月15日の終戦記念日に訪れるとは、何の巡り合わせなのだろう。
 午後の一番暑いとき、いつものように眠気に襲われる。2度、3度と道端の木陰にバイクを止めて休憩しながら、夕方5時やっとブルームに到着。『真珠祭り』と書かれた横断幕が目についた。日本人の貢献もずいぶん大きかったことが伺われる催しだった。何も知らない自分が恥ずかしく、もっと歴史を勉強したいと素直に思った。
 冬の5時といっても、まだまだ明るい。斎藤さんから貰っていたこの町の地図を頼りに、ケーブルビーチへ向かう。ここはヌードビーチということだった。
「この時間ならひょっとして」
 中年のスケベ心が無かったと言えば大ウソになるが、その密かな目論見は呆気なく消え失せた。広くて長いきれいな砂浜には、もう人はまばらだった。芝生が敷き詰めてある小高い丘の上に立った。水平線の上にある太陽が海に落ちるまでには、まだ少し時間がある。
 市内で買ってきたビールの栓を開ける。近くで同じく太陽を見ていた日本人女性2人と声を交わした。少し話すうちに、
「前に会いませんでしたか?」
(おっ、ひょっとして、これはナンパされようとしているのかな?と思いつつも)
「いや、すみません。憶えてないですが」
「イエロー・ウォーターで」
 それで思い出した。ボート・ツアーに参加するため留まったカカドゥのクーインダの売店で、俺が『夜の分』のビールを買うのに並んでいた時、ちょっと話をしたことがあった2人づれだ。石川美樹さんと東海林照子さん。全く気が付かなかった。だがこれはナンパよりも嬉しかった。
 それでは、と残っているビール3缶を分けて、飲みながらサンセットを待つ。いつもは雲がかかっていてその反射がすごくきれいなのだそうだが、今日は残念ながら、というか、雲など全くかからず、輝くインド洋の彼方にスーッと沈んでいく夕陽だった。
 すぐ近くのキャラバンパークへテントを張ろうかと思っていたが、もう少しビールも飲みたかったし、既に暗くなった道路を、彼女らの自転車(無灯火)の後をライトで照らしながらゆっくり走り、市内へ向かった。結局彼女らと同じバックパッカーへ泊まることにして、シャワーを浴びた後夕食に出掛けた。レストランなんぞに入ったのはシドニー以来なかったことに気が付いた。
 祭りの出店で買ったビールを飲みながら歩いていると、パトカーが近付いてきて、
「歩きながら飲んではいけない」
 と注意されてしまった。アル中対策の秩序作りのためか。この国に来て初めてのことだった。

バンクハウス・バックパッカーズ泊(10$)
本日の走行 Halls Creek ~ Broom 706km

…次回「沈む太陽に胸きゅ~ん」へ続きます