*1本指のピースサイン
2010年02月14日(日曜日)
☆1本指のピースサイン
8月14日 (火) 快晴 20日目
7時起床。いつものように出発前のメンテナンス。チェーンにオイルスプレーをし、プラグを交換する。
また昨日と同じ様なアウトバックの道が続く。が、今日はもう何億年も前に海底で堆積した地層が、くっきりと山肌に現われて、まるで城壁のように連なっているのをいくつも見た。大陸全体が非常にフラットなので、当たり前と言えばそれまでだが、ずっと平らなまま盛り上がっている。
270~80km走ると、ここはもうノーザンテリトリー(北部特別地域)とウェスタンオーストラリア(西オーストラリア)の州境。東から西へ入る車両はすべて道路脇の広場に誘導されるようになっている。俺も止められた。日本のボーイスカウトみたいな格好をしたおっちゃんが聞いてきた。
「果物を持っていますか?」
瞬間、昨日買った玉葱、じゃがいも、人参が思い浮かぶ。少量だがバッグの中に入っていた。多分野菜も駄目なはず。しかし、彼は“果物”と聞いたのだ。
「いいえ」
後から車がやってきた。俺はOKになった。ちょうど疲れもピークに達していたため、ここのテントで休憩させてもらうことにした。次の車の検査を興味深げに眺める。トランクの中から出された袋入りのオレンジが、俺のそばにある廃棄用の大型段ボール箱に捨てるように指示されたようだ。その中にはすでにたくさんのオレンジや野菜が捨てられていた。
西オーストラリアは果物や野菜の産地だ。防疫(農産物の害虫予防)のための検査なのだ。
「持っていればどうしても捨てなきゃならないんですか?ここで食べてはいけないんですか?」
「もちろん、食べてもいい。食べ切れない分はすべてここに置いていってもらうが」
「没収されたものは、どうするんですか?」
「すべて焼却される」
「もったいなー」
検査員は50歳前後のおじさん1人。そういう会話を交しながら、コーヒーを御馳走してくれる。すぐにたくさんのハエが群がってきた。何かの本で読んだか、人から聞いた話だが、オーストラリアでは、カップのふちにたかってきたハエとの関わり方を見て、その人がどのくらいここにいるか分かると言う。
3日目の人…追い払って、綺麗に拭って飲む。
3週間の人…手で上手に払いながら飲む。
3ヶ月の人…ハエ付きのカップでないと飲まない。
俺は3週間目の人になっていた。
おじさんに、これまで見て来た地形のことを聞くと、6億3千万年前に隆起したと教えてくれた。うーん、すばらしい。自分のカラがとれてくると、気持ちもオープンになる。この頃妙になんにでも感心するようになった。
1時前、クヌヌラという5000人ほどの大きな町に着く。暑い。給油をし、換金をしに銀行へ行く。エアコンが効いていて、目茶苦茶気持ちがいい。外は37~38℃はあろうか。生き返った気がして、壁の時計を見ると、11時半。まだ昼前だ。標準時がまた変わっていた。ノーザンテリトリーよりも、1時間半遅い。日本からは、1時間遅れだ。時計をその分だけ戻した。何だか得した気分になり、コーヒーとバーガーで昼食休憩にする。地図をながめ、煙草をふかしながら2時間近くも居座る。やっぱりもう歳なのかな。やたら疲れてしまう。元々暑さにはそう強くないので、けっこう参ってしまうのだ。
それから150km走って、低い木の陰に座って休憩していると、キャラバンカーをつないだ車がレストエリア(サービス施設など全くないHWY横の乾いたただの赤土の広場)に入ってきた。先程、追い越しざま手で合図を送り合った老夫婦だ。タスマニアからやって来て、もう3ヶ月になると言う。12月に帰ると言っていたから、ずいぶん長い旅行だ。奥さんは、ホームシックになってしまった、と言いながら、椅子を用意し、コーヒーをご馳走してくれた。こういう温かいふれあいは、荒涼たる地だから余計に感じるのか、心が和むものだ。
今日特に感じたことだが、この道を走っている車は、車種を問わず手を振って挨拶してくる。普通に旅している車はもちろん、長距離バスやロードトレインの運転手もしかり。助手席に乗っているおばあちゃんなど、珍しいものにでも出会ったみたいに、身を乗り出して手を大きく振ってくる。運転している旦那も同じだ。慣れない手つきがまたいい。ここはスチュアートHWYに比べればずっと車の数は少ない。だからここを走る者は、皆マイト(仲間)なのか。俺はピ-スサインではなく、左肘をタンクについたまま、人差指を1本だけ上げるサインの癖がついてしまった。
日本でのツーリングでは、ライダー同志が出遭うと、ピースサインを交す。お互いに、
「よっ、ガンバッテる?」
「気をつけて。元気で!」
というような意味を込めるのだ。ヘルメットのあごの右前12cm位のところ、左手で斜めにビッと決めるのがカッコいい。だが右手でやってしまうと、アクセルが戻って減速してしまい、ちょっと恥ずかしい思いをすることになる。(実は日本一周の時、やってしまった。しかも登り坂で)そして相手が出してくれなかっても、クサることはない。こっちも気づくのが遅れて、出し遅れたりすることがある。相手にも、何らかの理由があったのだろうと考えれば何ということはない。オフロード・バイクのライダー達は、たいていピースサインよりも手をあげてくるので、気付かないことはないのだが。ともあれ、絶対にしなければならない、なんてことはないので、軽い気持ちでやるのが一番いい。
西オーストラリア州に入って気が付いたが、ここにもたくさんのアリ塚があった。しかし、形が違う。ノーザンテリトリーを中心にあるアリ塚は、何か仏像とか人の形、こん棒状のものが多かった(帰国後テレビで平面状のものも見た)が、ここではきのこ型のものが、まず現われた。大きさも種々ある。ノーザンでは4~5mもの高さのものがあった。蟻の種類が違うのかどうかは知らないが、蟻にも文化があるのだ。7~800kmの距離があれば、形も文化も変わってくる。
俺には新鮮な驚きだった。しかも、これだけのものを造るには、200~300年はかかると聞いた。おまけに、道路の両側は、よく火事が起こるらしく、草はほとんど燃え尽きて、生命力の強い木だけが樹皮を焦がしたまま生き残っている。その中に無数に残るアリ塚。蟻はきっとあの中で生きて活動しているのだろうな。何千万年もこういう繰り返しの生活が続いているに違いない。ここにも気の遠くなるような自然の営みがあった。
今日も暗くなってからも走り続けた。いつも通り動物の飛び出しに神経を使って、昼より随分と厳しいものがあった。しかし、ブッシュキャンプはずっと牧場が続き、牛さんがあちこちにいて危険で出来ない。やっと町に出た。キャラバンパークもある。
申し込みをしてテントサイトへ。バイクを止めたらテントを張るよりも、キーを抜くよりも、まずブーツとモトパンを脱いで、短パンと裸足になる。そのあとすぐに、買ってきたビールの栓を開けグッと一気にやる。まだよく冷えていて、これがたまらない。
一服した後、ようやくテントを張り、湯を沸かしながら荷物を降ろすのだ。それにしても、ここは大正解だった。広いし設備もよく、芝生も整っている。蟻さんも他と比べるとずっと少なかった。昼はあれだけ沢山いる蠅さんも、夜になるとどこへ行くのか、すっかり姿を消してしまう。蚊は、まぁ仕方がないか。
今夜も大空に一面星が輝いている。飯の後、残りのビール2缶もまたたく間に空になってしまった。とにかく喉が渇いて仕方がない。アボリジニー達が、遠くで奇声をあげている。オォーッ、ヤーッなどと叫ぶ声が、200m以上離れているここまで響いてくる。よくとおる声だ。何かスポーツでもやっているのだろうか。10時を過ぎているのに、彼らの元気なこと。ああいうエネルギッシュなパワーにはいつも魅了されてしまう。早く寝てしまうのがもったいなく、彼らの声にしばらく耳を傾けながら、芝生に仰向けになっていた。
あれほどクソ暑かった空気も、夜になるとすっかり涼しくなるので嬉しい。只今20℃。どえらく気持ちが良い。
ホールズ・クリーク・キャラバン・パーク泊(5$)
本日の走行 Victoria River ~ Halls Creek 685.2km
…次回「バイクで世界一周ハネムーン」へ続きます